「本当に美味しく感じるうつわとは、どんなものだろう?」
食時間をもっと豊かにしたい人が、理想の陶器をデザインするプロセスを通して、自分なりの審美眼を養うための講義です。
他人の答え(例えば他者がデザインした大量生産の食器)を盲目的に消費するのではなく、自分なりに考え、作陶体験を通して、うつわと自分の関係を深めることを目指します。
愛しいうつわに囲まれた食卓は心地いい
ある日、一目惚れして手に入れた。そのうつわに料理を盛ったら、いつもの食卓が一変した経験があります。普段よりも美味しく感じたのです。よく選んだお気に入りのお皿やカップが一つ加わるだけで、こんなにも日々のごはん時間が楽しみになるとは、大きな発見でした。
器によっておいしさが変わる。それだけでなく、さらに料理する意欲も湧いてくるし、盛り付けも、食べ方も、洗い物や保管も丁寧になる。自分の生活スタイル全体を見直してみようとさえ思えました。
うつわに興味を持ちはじめ、素敵なセレクトショップを巡ると、あれもこれも欲しくなってしまうし、そのまま人気作家のうつわを探す旅に出る人も多くいます。魯山人やルーシー・リーなどの器名人を知ったり、ヨーガンレールの食堂などでうつわをみていると、どこに美しさや心地よさの違いがあるのか、上手く言語化できないけれど感じるものがあります。
そこで、うつわを次々と買うまえに、まずは一度、自分の好みを整理する機会があるといい。そう思ったのが、この講義を企画した理由です。
奥が深いうつわの世界。ベースとなる基礎知識と体感があるのとないのとでは、楽しみ方が異なります。
「自分にとって理想のうつわとは?」
実際にオリジナルのお皿をプロダクトデザインする過程を経ることで、知識だけでなく体感として、価値観(うつわ観)を整理することができるはず。
自分自身をみつめ、向き合うことが、自分にとってのちょうどいい豊かな生活につながります。人とくらべない、自分にとってのベストを選択する中で大切にしたいことが見つかるでしょう。
制作を学ぶ、鎌倉の工房。
今なぜ陶芸か。最も歴史のある「続くもの」には、本質的な美がある
現代的な、例えばプラスティック、アルミなど軽くて便利な素材から、磁器、漆器、鉄器、ガラス、木、竹など。器にもさまざまありますが、この講義では最もベーシックである陶芸に取り組みます。
陶芸は1万年以上の歴史があり、人類にとって最古のテクノロジーであり、芸術のひとつ。粘土を手やろくろを使って成形し、窯で焼いて完成させる陶芸は、最新素材が溢れる現代でもなお主要な食器の座を維持し続け、伝統工芸として世界各地で親しまれています。
陶芸の魅力のひとつは「粘土の自由度の高さ」。手づくりなら、商業生産ではできない絶妙な表現も可能です。
粘土も知るほど魅力的。岩石が地球の自然環境やマグマ活動によって隆起し、風化し、河川によって精製されて初めて粘土となるのです。一般的な粘土は、岩石の状態から100~200万年以上も経っていると言われています。また、一度焼いてしまった粘土が元の柔らかい粘土に戻るには、2万年以上もかかる。人間の一生などほんの一瞬でしかありません。
人が土に触る時、地球上の数百万年分の時間も一緒に練り込んで、その時代に生きていた人の指痕を数万年の未来に残すことができる。そんな、時を超えた素材なのです。
自分にとって「理想のうつわ」を陶芸でつくる
陶芸は誰もがやりやすく、間口が広いのですが、追求すればするほど答えのない深い深い道があるのがわかります。食卓を彩るベストなお皿、自分にとって究極のお皿を考えるところから始めます。
料理から器をリンクさせ、自分にとっての「正解」を導きだし、陶芸に落とし込みます。
日常で使う、料理を引き立てるうつわは、「美しさ」と道具としての「機能性」を両立したいものです。
理想のカタチ、サイズ、厚み、重さ、角度、深さ、手触り、色味、ツヤ… 考える項目はいくつもあります。
極限までそぎ落としたラインの美もあれば、自由で大胆、のびやかな曲線で「意図していない美」もあります。
土の美しさを生かした、ずっと触っていたくなる「手触り」や、シンプルな暮らしに合う、心地よい誠実なフォルムを追求してみるのも良いでしょう。
本物の美は、どうしたら手に入れることができるでしょうか。
「器を選ぶその審美眼を磨くには?」という問いに、民藝運動の柳宗悦は「異性に恋に落ちる時のような説明しようのない直観に従うしかない」と答えています。
「名匠の作品だから」と表面的にありがたがるのではなく、私たちの誰の中にもある「美」を見落とさないようにしなくてはなりません。知識や情報に惑わされず、自分の「直観」を信じて生きていこうではありませんか。
(第1期募集開始日:2021年4月26日)