強い共同体は、偶然だけでは生まれない
古来、祭りは人が生きるために欠かせないものでした。
例えば、田植えの前に豊穣を祈り、収穫の後に感謝を捧げる。人は自然と共に暮らし、喜びも悲しみも分かち合って命をつないできました。
けれど、現代の私たちはどうでしょう。テクノロジーは発達し、SNSではいつでもつながっているはずなのに、心の奥ではどこか孤独を感じている。効率化と合理性の名のもとに、「一緒に生きる」感覚が少しずつ薄れてきているのかもしれません。
職場では成果主義が仲間を分断し、地域では人づきあいが減り、家族ですら同じ空間にいながら別々の世界を見ている。心を燃やす機会は減り、多くの人が、心の温度が下がるのを感じています。
だからこそ今、「祭り」が必要なのです。祭りは、人がもう一度「生きる力」を取り戻すための再起動装置。共同体のエネルギーを呼び覚ます知恵なのです。

能登の「あばれ祭」でキリコを担ぐ大原さん(右)
祭りは、共同体を再起動する装置
人間は集まることで力を得ます。
けれど、ただ集まるだけでは、共同体は強くなりません。惰性の集まりはむしろ関係者を疲弊させ、熱を失わせることもあります。
祭りには、人間が心から動き出す「仕掛け」があります。その場にいる誰もが主役になれる瞬間があり、理屈ではなく、リズムでつながっていく。そのとき、バラバラだった人々が一つの物語を生きはじめるのです。
この講義では、祭りの力学を理解し、意識的に「場を設計する力」を学びます。
あなた自身が仕掛け人となり、熱狂を生み出す祝祭をデザインしてみませんか?
なぜ今、祭りなのか?
国、地域、会社、チーム、家族。どんなサイズの共同体にも、心をひとつにする「ハレの日」が必要です。
それは単なるイベントではなく、人間の根源的な祈りと協働を再生させる場。他者と共に生きようとする力を取り戻す、共同体のリズムを整える大切な時間なのです。
現代社会は、常に「ケ(日常)」が続く状態にあります。私たちは毎日働き、情報を浴び、タスクをこなしながら、「終わりのない時間」を生きています。だからこそ、意識的に「ハレ(日常の外)」をつくることが大切になる。祭りとは、切り替えの知恵であり、生の呼吸を取り戻すための装置なのです。
祭りのない社会は、呼吸のない身体と同じ。エネルギーが循環せず、しだいに力を失っていきます。もう一度、人と人が息を合わせ、笑い、祈り、踊る。その行為そのものが、社会を再び動かすエンジンになるのです。

伝統的な「祭り」の力学は、現代の「フェス」や「文化祭」「周年祭」まで応用できる
祭りの本質にある3つの力
① 心の解放と再生
日常(ケ)では抑え込まれたエネルギーを、非日常(ハレ)で一気に解き放つ。この心理的リセットこそが、祭りの核心。古来の祭りであれば、太鼓の響きや神輿の熱狂が、人の内なる生命力を呼び覚まします。
② 世代と立場を越える「協働」
老若男女が役割を分担し、同じ目的に向かって動く。そこに生まれるのは、肩書きを越えた真の一体感と誇り(アイデンティティ)。祭りは、「誰かのために動く喜び」を思い出させてくれます。
③ 文化と歴史の「生きた伝承」
祭りは土地の記憶そのもの。自然への畏敬、風土、歴史、祈り。それらを身体で学ぶ「生きた教育の場」です。子どもや若者たちは、祭りを通して「自分の居場所」を見つけていきます。

秩父夜祭の起源は2000年前とも言われる
フィールドで学ぶ、まつりの設計図
今回のフィールドワークでは、世界無形文化遺産「秩父夜祭」を現地で体験します。300年以上の歴史を持つ日本三大曳山祭のひとつであり、冬の闇に山車と花火が照らすその光景は、まさに熱狂の建築。その場に立ち会うだけで、体の奥が震えるはずです。
体験の後には、自らの中に浮かんだ「願い」や「問い」を掘り下げ、「誰かの祈りが場を生む」という祭りの原理を言語化・設計していきます。最終的には各自が自分のコミュニティで祭りを仕掛けることができる、「祝祭デザイン」を学ぶプログラムです。

雨だってこの笑顔!
教授、大原学さんメッセージ
「生きる歓びが、世の中にあふれるといいな」
人はひとりでは生きられません。心がふるえる瞬間、誰かと呼吸を合わせる瞬間。そこにこそ、生きる歓びが宿るんです。
祭りは、その原点を思い出させてくれる仕組みです。自然と向き合い、隣の人と息を合わせ、笑いながら、泣きながら、祈りながら、自分たちの世界をもう一度つくり直していく。
僕はこれまで全国の現場で見てきました。熱狂は偶然に起きるものではありません。そこには、祈りと仕掛けと、人の想いがあるんです。
この講義では、人が熱狂する構造を一緒に探究したい。あなたの中の願いが、誰かの心を動かす。祭りをつくる。祭りでコミュニティを元気にする「マツリテーター」に、あなたもなりましょう。
(第1期募集開始日:2025年10月11日)