講義レポート

ごく自然な「クリエイティビティ」の話

クリエイティブ都市学 − 北欧学3期 講義レポート

「クリエイティビティはどこからくるのか。」「それは誰のものなのか。」そんな大きな問いのもと、この講義は開かれました。そしてそこにゲストとして迎えられたのは、フィンランドで生活を送る(送られていた)デザイナー・研究者の方々。

彼らを特徴づけていたのは、ひとりの人間として何を拠り所にしているか、それをクライアントや世の中の人々と共感し合うための方法を考え続ける姿でした。

クライアントを「育てる」

デザイナーのひとりの作品紹介の中に、こんなものがありました。

あるクライアントの建築ために、ローカルな素材、その地のアーティストやデザイナーの家具等の作品を、積極的に用いて行われたインテリアの提案。
そのクライアントはフィンランドの地に昔から根付いた、つまりローカルな企業であり、そこに結びついた提案をされていました。

形式的に見れば、クライアントが持つ文脈をデザイナーが読み取り、そこに最適だと考える提案を行った、一つの事例にすぎません。
でも、ここで話は終わりません。

デザイナーである彼女は、幼少のころからハンティングに親しみ、普段の食生活でもローカルな食材を選んで食べているそうです。そこには理由があり、彼女なりの重要だと思うポイントがありました。
だからこそ、このインテリアの提案には「ローカルなものを消費すること」という、自身と共通する視点のもと、彼女にとって意義のあるコンセプトであったそうです。そして、そのコンセプトの意義をクライアントに伝え、理解してもらうことを大切にしたと言います。

それを彼女は、日本語で捉えれば「クライアントを育てる」と表現していました。

「育てる」と言うと、どうしても上から目線に聞こえてしまうかもしれません。

でも、クライアントの目線を高く理想を求めさせるわけでも、低く妥協点を探させるわけでもなく、ただデザイナー自身の目線へと合わせいく。そうやって、同じ景色を見ながら、お互いにとって意義のあるものにしていく。この姿勢に、私は彼女なりのクリエイティビティを強く感じました。

自分の持つ文脈を読み解く、伝える、伝わる

では、そのクリエイティビティはどこからやってくるのか。

先ほどのエピソードで、大きなポイントだと感じるところがあります。
それは、相手(クライアント)だけではなく、「自分の持つ文脈」を大切にしながら、提案に絡めて伝えている点です。

この「自分の持つ文脈」に、彼女のクリエイティビティの源があったのではないかと私は考えま す。そして、それを読み解き、相手に共感してもらうカタチへとアレンジしていく力こそ、「クリエイティビティ」と呼べるものなのではないでしょうか。

また、彼女の提案が実現するまでには、経済的採算性や人手・資源の確保など、様々な課題があったと思います。しかし、この「クリエイティビティ」の源こそが幾多もの壁を乗り越える原動力にもなっていたのではないかと思うのです。

このことは、他のデザイナー達にも共通して感じられたことでした。

ビーガンや昆虫食を実践しながら、環境負荷の少ない素材を使った商品を展開したり、周囲の共感が得られる方法を探り、その食生活の普及に尽力したり。
また、作品が生まれる根底には、家族との時間を含めた日々のデザインワークがあったり。

どれもデザイナーたちの持つ「自分の持つ文脈」が、それぞれの活動に色濃く、人々にわかりやすく伝わるカタチで反映されていました。

だからなのでしょうか。彼等・彼女らの作品紹介を聞いていると、いつの間にか、彼等・彼女ら 自身の事を、“自然体”で語っているように聞こえてくるのでした。

クライアントワークをしていると、当たり前のことではあるけれど、「相手のため」ということに考えが集中します。でも一方で「どうしてこのデザインが自分から生まれたのか」「どうしてこのデザインを自分はしたいのか」、そして「どうしてこのクライアントと実現したいのか」。そ んな事をふと考えてみることも、クリエイティビティを発揮させる出発点となるのかもしれません。

 

クリエイティビティは誰のもの?

こうやってフィンランドのデザイナーたちのお話を振り返ってみると、クリエイティビティは 「社会のため」「クライアントのため」である以前にまず、「自分自身のためのもの」なのではないかと感じられてきます。

あなたが誰かと、何かを実現したいとき、それが自分にとって意義あるものだということを、そしてそれを誰かと共感し合いながら物事を成し遂げていく。
「クリエイティビティ」は、そんなときに必要な力のことではないでしょうか。

はじめから、他人や社会に還元しなくちゃいけない、と大きなスケールで考える必要はなくて、 まずは「自分のために」クリエイティビティを発揮してみる。

フィンランドの人達はそこから物事を始めてみているから、
本人たちに特別な自覚はなくとも、他よりちょっとだけ「幸せ」に見えるのかもしれませんね。

 

「クリエイティブ都市学―北欧学」
第3期卒業生 内田 哲人



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